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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)1856号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人が泉南カンツリークラブ理事会の相続を理由とする入会承認を停止条件とする被控訴人の個人正会員としての地位を有することを確認する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  (主位的請求)

控訴人が被控訴人の個人正会員としての地位を有することを確認する。

被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人発行の個人正会員証を交付せよ。

3  (当審で追加された予備的請求)

控訴人が被控訴人又は泉南カンツリークラブ理事会の相続を理由とする入会承認を停止条件とする被控訴人の個人正会員としての地位を有することを確認する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴及び当審で追加された予備的請求を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由第二事案の概要(原判決一枚目裏九行目から同四枚目裏七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏一行目「本件クラブの」から同行目「規定がなく、」までを「本件クラブの平成五年三月二五日まで施行されていた会則(以下「旧会則」という。)では、会員の死亡は会員資格の喪失事由とされておらず(八条)、同年三月二六日施行の会則(以下「新会則」という。)において、個人会員が死亡したとき会員資格を喪失すると定められた(六条)のであり、新旧会則を対比すると、旧会則では、個人正会員権の相続を認めていたものである。」と改める。

2  同三枚目裏四行目の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「 前記のとおり本件クラブは団体としての実体がなく、理事会の独自性がないうえ、旧会則には、個人正会員が死亡し、相続により会員権を取得した者が入会するにつき理事会の承認を要する旨の定めはないから、控訴人が清の会員権を相続して、会員となるについて、理事会の承認は不要と解すべきである。

仮に控訴人が入会するについて理事会の承認が必要であるとしても、控訴人は、清の会員権を相続することにより、右承認を停止条件とする被控訴人の個人正会員の地位を取得したものであるから、右地位の確認を求める(当審で追加された予備的請求)。」

3  同四枚目表六行目「会則」を「旧会則」と改める。

4  同四枚目裏一行目「会則」を「旧会則」と改め、同行目「規定はない。」の次に「旧会則第八条に死亡が会員の資格喪失事由として明記されていないのは、ゴルフクラブの社交団体、親睦団体としての性格上、当然のこととして明記されていなかったにすぎない(新会則では、確認的に死亡を資格喪失事由として規定している。)。」を加える。

第三  証拠(省略)

第四  争点に対する判断

一  清の本件クラブ正会員資格の取得について

当裁判所も、清は、被控訴人に対し、本件クラブ個人正会員としての入会を申し込み、預託金二〇〇万円を支払い、本件クラブ理事会の承認を受けて、正会員の資格を取得したものと認定するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由第三 争点に対する判断一(原判決四枚目裏一〇行目から同八枚目表八行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表一行目「明らかにする証拠はない。」を「被控訴人は何ら具体的な立証をせず、右事情、理由の存在を窺わせる証拠もない。」と改める。

2  同六枚目表三行目「被告に対し」の前に「、当時の本件クラブ支配人に右事実を知らせ、同支配人の助言により」を加える。

3  同六枚目表九行目「認定した事実」の次に「及び清の入会申し込みや預託金支払の点に関して被控訴人が何ら具体的な反証を行わないこと」を加える。

4  同六枚目裏八行目及び七枚目裏四行目の「会則」をいずれも「旧会則」と改める。

二  会員権の相続性について

1  清が昭和五七年一二月五日死亡したことは前記認定のとおりであるところ、証拠(甲三の一及び二、証人小門美智子)によれば、清の相続人である妻小門美智子、長男控訴人及び二男小門順二は、平成二年一月一一日、清の有していた本件クラブ会員権を控訴人が相続する旨合意した事実が認められる。

2  証拠(甲一三三、一六二、一六六、乙一、六の一及び二)及び弁論の全趣旨によれば、本件クラブにおける会員権の譲渡及び相続に関する会則の定めや従前の取り扱いについて、次の事実が認められる。

(1) 旧会則には、会員権の譲渡を禁ずる旨の定めはなく、同会則の附則に基づいて制定された本件クラブの細則には、本件クラブ入会希望者で会員券業者から買入をした会員券は理事会で調査の上、理事会の承認を得た後会員として登録される旨の定めがあった(二六条)。

新会則では、会員は、事前に理事会の承認を得た場合に限り会員たる資格を譲渡することができる旨定められている(一二条)。

(2) 旧会則では、会員の死亡は資格喪失事由とされておらず、会員権の相続による承継を禁ずる旨の定めはなかった。新会則では、個人会員について、死亡を資格喪失事由と定め(六条2)、会員が死亡したときは、預託金は相続人に返還する旨の規定を設けている(九条〈4〉)。

(3) 本件クラブでは、旧会則の下では、会員権の譲渡及び相続については、譲受人や相続人からの名義書換請求に対し、理事会で審査を行い、理事会で承認した場合に譲受人及び相続人への名義書換えを行うという取り扱いがなされていた。

3  預託会員制ゴルフクラブの会員権は、ゴルフ場を経営する会社との間の契約に基づいて発生する、ゴルフ場施設の優先的利用権や預託金の返還請求権等を内容とする契約上の地位であると解されるところ、このような契約上の地位が法律上当然に一身専属的な法律関係であり、相続の対象とならないと解すべき理由はなく、むしろ、当該ゴルフクラブにおいて会員権の相続を禁ずる旨の会則等の定めがない限り、相続による承継の対象となるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件ゴルフクラブの旧会則には、会員権の譲渡一般はもちろん、相続についてもこれを禁ずる旨の定めはなく、実際にも相続人に対する名義書換えを認める取り扱いがなされていたことは前記認定のとおりであるから、清の本件会員権について、相続による承継を否定すべき理由はないというべきである(なお、新会則の前記各規定は、個人会員権の相続による承継を禁止する趣旨と解されるが、新会則の施行は、清の相続人の合意により控訴人が本件会員権を相続した後のことであるから、控訴人の本件会員権の承継については旧会則が適用されるというべきであって、新会則の適用により右相続承継が禁止されると解する余地はない。)。

4  もっとも、ゴルフ会員権の契約上の地位という法的性質からすると、その譲渡には、譲渡人と譲受人の間の譲渡の合意のみならず、契約の相手方であるゴルフ場経営会社の承諾を要するのが通例であると考えられる。また、ゴルフクラブでは、一般に会員間の個人的信頼関係を基礎とし、当該クラブとしての一定の品位や技術的水準等を維持する必要性から、会員権を譲り受けて新たに入会しようとする者が当該クラブの会員としての適格性を有するか否かを理事会等の機関で審査し、適格性を認めた場合に限って会員の地位の譲渡を認める旨の定めを置く例が多く見られるところである。

本件クラブにおいても、会員権の譲渡について、理事会の承認を必要とする旨の会則の定めがあり、実際にもそのように運用されていることは前記認定のとおりであるが、このように会員権の譲渡に制限を加えることは、先に述べたゴルフ会員権の法的性質及び会員の適格性審査の必要性からみて、合理性を有するものとして是認することができる。

そして、右のような譲渡の制限の必要性及び合理性は、相続による承継の場合にもかわるところはないと解されるのであり、したがって、控訴人は、本件クラブ理事会の承認がなければ、相続による本件会員権の取得を主張できないものというべきである。控訴人は、本件クラブが被控訴人から独立した実体を有しないから、本件会員権の相続について本件クラブ理事会の承認は不要である旨主張するが、右主張が採用できないことは、先に判示したとおり(一2)である。

このように、会員権を相続により承継したが、理事会の承認を得ていない者の法的地位は、会員権の譲渡を受けたが、理事会の承認を得ていない者と同様であり、理事会の承認を停止条件とする会員たる地位を有するものと解するのが相当である(名義書換えを行わないままでなされる会員権の売買は、右のような停止条件付の会員たる地位を対象とするものと解されるのであり、控訴人は、右のような地位に基づき、本件クラブ理事会に対して相続による承継の承認を求め、あるいは、停止条件付の会員たる地位を第三者に譲渡することができる。)。

5  以上によれば、被控訴人に対し、個人正会員の地位を有することの確認及び個人正会員権証の交付を求める控訴人の主位的請求は理由がないが、本件クラブ理事会の承認を停止条件とする個人正会員の地位を有することの確認を求める控訴人の予備的請求は理由がある(なお、控訴人は、予備的請求において、被控訴人又は本件クラブ理事会の入会承認を停止条件とする個人正会員の地位の確認を求めているが、前記認定の本件クラブの会則及び会員権の譲渡・相続の承認に関する運用によれば、本件クラブの会員権の相続による承継については、被控訴人ではなく、本件クラブ理事会の承認を必要とするものと解されるから、同理事会の承認を停止条件とする個人正会員の地位を確認するのが相当である。)。

三  以上によれば、控訴人の主位的請求は理由がないから棄却すべきであり、当審で追加された予備的請求は理由があるから認容すべきである。よって、主位的請求について右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、当審で追加された予備的請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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